種牡馬‐キタサンブラックの分析
今回はキタサンブラックについて記事にしていこうと思います。
キタサンブラックはG1を7勝し、18億7000万超の獲得賞金を得た名馬です。アーモンドアイが新記録を出すまで、G1勝利数は歴代最多タイ、獲得賞金額は歴代1位の記録を持っていました。キタサンブラックの引退とアーモンドアイのデビューがともに2017年ですから、ヒーローからヒロインへのバトンタッチという感があります。キタサンブラックの引退以降、強い牝馬の時代が始まり、アーモンドアイ・ラッキーライラック・クロノジェネシス・グランアレグリアが数多くの混合G1を勝利しています。
キタサンブラックの庭先取引価格は350万円程度とされています。
Number WEB 2021/07/09 小川隆行氏の記事より
これはキタサンブラックがディープインパクトの全兄ブラックタイド産駒であること、母が未出走馬であること、生産がノーザンファームではないこと、などの理由が考えられます。
こうした血統背景もあってか、キタサンブラックはG1を7勝した馬ではありますが、初年度種付け料は500万円でした。牡馬三冠とジャパンカップを制したコントレイルは初年度種付け料1200万円で種牡馬入り、G1をそれぞれ2勝したレイデオロ・サートゥルナーリアは初年度種付け料600万円で種牡馬入りしていますので、抑え目な価格となっています。初年度の種付け→血統登録馬数は83頭。レイデオロは128頭ですから、人気的な意味でもやや苦戦したというところでしょう。一方で社台グループ生産馬率が高く社台グループの期待は非常に高いと言えます。
- 2018年 500万円
- 19産血統登録馬数 83頭
- 2019年 400万円
- 20産血統登録馬数 81頭
- 2020年 400万円
- 21産血統登録馬数 54頭
- 2021年 300万円(初年度産駒デビュー)
- 2022年 500万円
※2022年3月時点
初年度からイクイノックスが東京スポーツ杯2歳ステークス(G3-東京‐芝1800m)を勝利。イクイノックスはクラシック路線への参戦を表明していますから、初年度からクラシック勝利の可能性が出ています。初年度産駒は2022年3月6日時点で出走頭数62頭中19頭が勝ち上がりなので、勝ち上がり率30%をとらえています。未勝利戦はまだ続くため、さらに数字は伸ばしてきそうです。
こうした活躍もあって、種付け料は初年度と同じ500万円に増額。来年はさらに上げてくる可能性がありそうです。
すでに重賞馬・クラシック路線で期待できる馬が出ているように、大舞台で活躍する馬を今後も出してきそうなキタサンブラックについて、分析します。
種牡馬分析 注意書き
本分析は自分自身が一口馬主として競走馬に出資しており、自分自身の投資先を選ぶための分析を公開しているものです。そのため、種牡馬の活躍を保証するものではございません。出資などの最終のご判断はご自身にて実施をお願いいたします。
また、馬券的な分析をするものではなく、一口馬主として出資をするうえでの分析ですので、馬券を検討する際の情報としては有効なものではありません。ご了承くださいますようお願いいたします。
以下、参考図書のご紹介です。

キタサンブラックの戦績
キタサンブラックは2015年に3歳新馬でデビューし、2017年の有馬記念を1番人気・1.9倍で勝利し引退。2着に1.5馬身差をつける勝ちっぷりに、まだまだ勝てそうな印象を抱いた人はかなり多かったのではないかと思います。社台スタリオンステーションに入って、2018年から種牡馬生活を送っています。
通算20戦12勝、2着2回、3着4回という戦績です。重賞成績は以下の通りです。
- G1級競走 14戦7勝 2着1回 3着4回
- 2015年 皐月賞 3着 中山内‐芝2000m
- 2015年 日本ダービー 14着 東京‐芝2400m
- 2015年 菊花賞 1着 京都外‐芝3000m
- 2015年 有馬記念 3着 中山外‐芝2500m
- 2016年 天皇賞春 1着 京都外-芝3200m
- 2016年 宝塚記念 3着 阪神内‐芝2200m
- 2016年 ジャパンカップ 1着 東京‐芝2400m
- 2016年 有馬記念 2着 中山外‐芝2500m
- 2017年 大阪杯 1着 阪神内‐芝2000m
- 2017年 天皇賞春 1着 京都外-芝3200m
- 2017年 宝塚記念 9着 阪神内‐芝2200m
- 2017年 天皇賞秋 1着 東京‐芝2000m
- 2017年 ジャパンカップ 3着 東京‐芝2400m
- 2017年 有馬記念 1着 中山外‐芝2500m
- G2級競走 4戦3勝 2着1回
- 2015年 スプリングステークス 1着 中山内‐芝1800m
- 2015年 セントライト記念 1着 中山外‐芝2200m
- 2016年 大阪杯 2着 阪神内‐芝2000m
- 2016年 京都大賞典 1着 京都外‐芝2400m
- G3級競走 出走なし
※大阪杯は2016年までG2競走。2017年からG1競走。
G1級競走7勝は歴代2位タイ。
20戦中17戦で逃げ・先行。
1800mから3200mの幅広い距離適性、小回り・大箱問わない器用さを持つ。
稍重・不良でも実績があり、馬場適性の幅も広い。
キタサンブラックはG1を7勝しています。これはアーモンドアイが更新するまで歴代最多タイ。中山・東京・阪神・京都とJRA主要4場すべてでG1勝利をするというオールラウンダーです。勝利した距離も1800mから3200m、良馬場から不良馬場までこなしています。
キタサンブラックのコース適性・距離適性・馬場適性の高さは、競走能力の高さはもちろんですが、メンタル的な要素も大きいと考えられます。キタサンブラックは逃げ馬ではありますが、ハナを切らなければ走れないタイプではなく、ゲートからポンと出て加速することが得意で、それによって先頭で走ることがある、というタイプでした。先頭を譲るケースも少なくありません。また、かかって逃げるタイプではなく、ゲートを出てから落ち着いてペースを緩めることができる馬です。気性的な問題でスタミナを消耗することがないのは、長距離をこなすうえで重要な加点要素です。
メンタル的な要素でいえば、抜かれてから差し返した2016年の天皇賞春、雨で不良馬場となった2017年の天皇賞秋も省庁的でしょう。差されても差し返す勝負根性、出遅れて他の馬に囲まれ、かつ泥をかぶるような不良馬場でも折れずに走るガッツがこのレースで表現されているのではないかと思います。
加えて、健康的にも素晴らしい馬でした。3歳時はデビューから日本ダービーまで毎月出走して5戦。秋もセントライト記念・菊花賞・有馬記念とタフなレースを3戦して、合計8レースに出走しています。4歳時は大阪杯・天皇賞春・宝塚記念の春の古馬芝路線を走り、秋は京都大賞典・ジャパンカップ・有馬記念に出走。5歳時も春古馬芝路線の3戦に、天皇賞秋・ジャパンカップ・有馬記念を1着→3着→1着で完走。クラシック路線でも活躍し、古馬になっても戦績を落とすことなく、むしろあげていき、大レース皆勤賞という成長力とタフさは、本当にすばらしいものがあります。
キタサンブラック以降の活躍馬はレースを厳選して温存しながら使っていくのが基本となっており、このローテーションをこなし、かつ何勝もする馬はキタサンブラックが最後かもしれません。
本当に心身ともに極めて優れた競走馬でした。
キタサンブラックの血統分析

- 3/4 Northern Dancer ・ 1/4 サンデーサイレンス の好バランス
- 3/4 Northern Dancerも前粘り気質揃いのLyphardの4×4とノーザンテースト
- LyphardはFair Trialを母系に持つため前粘り気質
- ノーザンテーストはHyperionが濃いため前粘り気質
- 3/4 Northern Dancerも前粘り気質揃いのLyphardの4×4とノーザンテースト
- 北米パワーと前向きさを刺激する血の活性化
- 父中距離×母父短距離による引き締め
- サクラバクシンオーのスピードが追走を楽にさせた
前粘り気質のNorthern Dancerの血を持ち、かつ北米的なパワーと前向きな気性を持つ血をキタサンブラックは持っています。そこに母父サクラバクシンオーが入ることで、スピードの絶対値を底上げしています。サクラバクシンオーのスピードが入ることで、追走においてスタミナを消耗しにくいラップタイムが上昇すると考えられます。
2000mを主戦場にする馬が、1200mの追走スピードをこなせるかというと、そういうわけではなく、ついていこうとすれば体力を大幅に消耗してしまうでしょう。逆に1200mを主戦場とする馬が2000mをこなせるかというと、気持ちよく走れる速さでは走りきるのは難しいでしょう。気持ちよく走れるラップタイムが各馬には存在しており、気持ちよく走れるタイムでの限界距離もまた存在していると考えたとき、キタサンブラックは気持ちよく走れるタイムが早くて長い馬で、だからこそあらゆるコース、あらゆる馬場、あらゆる距離に適合できたのではないかと考えられます。
サクラバクシンオーは短距離馬としてはNasrullahの血が強く、柔らかなタイプ。キタサンブラックもHaloの血を引く馬としては気性的な問題がなく、どっしりとしたタイプ。この柔らかさと気性的な余裕が相まったからこそ実現した要素でしょう。
ここから先はかなり細かく、解説がかなり長いので詳しく読みたい方のみお読みください。そうでない方は次のゾーンまで飛ばしてください。タップ・クリックで開けます。
種牡馬キタサンブラックの魅力と難しさ
- ディープインパクト用繁殖と相性が良さそう
- Storm Cat系・Unbridled’s Song系・A.P.Indy系の血を持たず、相性も良さそう
- Halo的な血を強化していくパターンが良さそう
- 適性の幅が広い
- マイルから長距離までこなせる可能性が高い。
- ダートも下級条件では十分勝てる可能性ある。上級条件も母系次第で対応可能な見込み。
- 重馬場でもパフォーマンスを下げない可能性が高い
- 先行脚質を受け継ぎ、前目の競馬を早期からできる
- 馬格に恵まれる馬が多い
- 馬格に恵まれすぎる
- 大きすぎる馬は故障リスクが伴う
- 馬格に負けない力強さがないと身体を使いきれない
- スピードを補わないといけなさそう
キタサンブラックの父ブラックタイドはディープインパクトの全兄です。2頭が産駒に伝える要素は異なりますが、持っている血は共通するので、ディープインパクトと相性の良かった血は好相性になるものもあるのではないかと考えられます。キタサンブラックはディープインパクトのニックスだった血を持たないので、それをそのまま活用できるのではないかと思います。
キタサンブラックは前粘りの競馬を得意とする競走馬でしたし、産駒にもその要素を伝える可能性が高いと考えられます。それを想定したとき、前に行ける、という能力を持つかどうかが重要な要素となります。前に行くためには、トモが早期からしっかりしていてほしく、かつ、スピードの乗りが良く、十分な速度もあることが求められます。
となると、Northern Dancer系のマイラーや北米的な血を入れていくのが適切で、ディープインパクトを想定した繁殖牝馬は好相性といえるでしょう。
キタサンブラックは馬格があり、産駒にもその要素を伝えます。馬格があることで、短いところでの競り合いにも強いでしょうし、ダートや重馬場もこなせる力強さを持つ馬が多いと考えられます。そのあたりから、キタサンブラックは幅広い適性を持った産駒を出すと考えられます。一方で、本質的には芝中長距離の馬でしょうから、上級条件でも走る馬は、芝の中長距離路線の馬ではないかと思います。
馬格に恵まれすぎると、ケガのリスクが高まったり、緩慢な馬になってしまう恐れがあります。そのあたりには配慮が必要かと思います。
キタサンブラック産駒 出資のポイント
キタサンブラック産駒への出資を考える場合、以下がポイントとなると考えます。
- Northern Dancer系マイラーの血を母系に持つ
- スピード強化と緩慢さ防止にはNorthern Dancer系マイラーが最適
- Mr.Prospector系マイラーの血を母系に持つ
- スピード強化と緩慢さ防止要素。Halo・Buckpasser(Tom Fool)が入ると理想的
- 母父A.P.Indy系は緩さに注意。引き締め要素をチェック
- 馬格があって緩いと良さを発揮できない。A.P.Indy系はやや緩いので注意
- Haloのクロスやニアリークロス持つ
- SingspielやMachiavellian由来はNorthern Dancer or Mr.Prospector+Haloで理想的
- 社台グループ生産馬である
- 社台グループが積極種付け&その他が消極姿勢より、日高の良い繁殖はキタサンブラックに回っていない可能性がある。
馬格があって柔らかく、先行して粘れるのがキタサンブラックの魅力で、それを再現していく配合を狙うのが吉と見ます。粘り強い先行力のあった父ブラックタイドに、柔らかなスプリンターであるサクラバクシンオーを取り入れたのがキタサンブラック。とすると、緩くしない引き締め要素を持ったマイル以下の速さを入れていく、が次のバランスというイメージ。
引き締めつつも重くしない、が重要で、軽い芝への適性を高くするためにHaloのクロス・ニアリークロスを狙うのも有効です。北米のダートマイラーの血は軽いスピードを持ちますが、欧州の芝マイラーの血は重い芝でも力強くスピードを発揮できる血なので、日本の軽い芝においては力強すぎるきらいがあります。Northern Dancer系マイラーの血でも、欧州芝のマイラーの血を入れる場合は、Haloのクロスやニアリークロスを持つことが大事だと考えられます。
冒頭で少し触れましたが、キタサンブラック産駒における社台グループ生産率は非常に高く、初年度血統登録馬でいえば40/83頭が社台グループ生産。20年産も38/81頭、21年産も22頭/54頭が社台グループ生産で、社台グループ比率が高い種牡馬です。同じぐらい非社台グループがキタサンブラックに期待していれば、生産頭数はさらに増えているはずで、うがった見方をすれば、日高系は期待の繁殖牝馬をキタサンブラックに回していないのではないか、と考えられます。
キタサンブラックへの出資を考える場合、シンプルに言えば、母系に速い血を持ったノーザンファーム生産馬を狙う、が良いのではないかと考えます。

イクイノックスはキタサンブラックの初年度産駒で東京スポーツ杯2歳S(G3‐東京‐芝1800m)を勝利。次走は皐月賞を予定しています。母シャトーブランシュはローズS(G2-阪神‐芝1800m)の2着などをがあります。キングヘイローは高松宮記念(G1-中京-芝1200m)を勝利。キングヘイローは短距離~マイルで活躍したLyphard系(Northern Dancer系)種牡馬で、Lyphardのクロスを発生させ、キタサンブラックの前粘り要素を強化しつつ、Haloのニアリークロスを多数持つことからHalo的要素の強化に成功しています。トニービンがトモを緩くさせる血ではあるものの、Hyperion的な粘り要素も入れることができています。東スポ杯は後ろからの競馬でしたし、前に行けるようになるともう1段強くなりそうで、まだまだ底知れない馬です。


ラスールは2022年3月6日時点で2勝をあげています。名手ルメール騎手が次のグランアレグリアと評したことで、注目を集める存在となりました。
母父Singspielは現役時代に来日し、ジャパンカップを制覇。産駒には1800m戦で活躍したローエングリン、安田記念を制したアサクサデンエン(半弟にヴィクトワールピサ)などがおり、日本の芝に高い適性を持つSadler’s Wells系(Northern Dancer系)種牡馬です。Singspielの日本への適性の高さは母にGlorious Songを持つことが大きいでしょう。マイラーではないものの、引き締め要素の強いSadler’s Wellsの血を入れつつ、日本の軽い芝への適性を高めるGlorious Songを取り入れることでラスールは成果を残せていると思います。
加えて母母父WoodmanはBuckpasserの血を引いており、北米的な要素と走法的な要素で好相性と見ます。
イクイノックス・ラスール以外の2勝馬を見ても、Northern Dancer系+スピード強化という馬が多く、傾向としてはわかりやすいのではないか、と思います。
まとめ
2021年産は頭数が少なく、出資機会が得られるかは微妙なところとみています。ノーザンファーム生産馬数も落ち込んだ年なので、ちょっと狙いにくいのが正直なところです。
パッと現状見れるとこ見てみたのですが、ドンピシャこれ、というのは発掘できず。20年産の馬は良さそうな馬が多いだけに、出資機会得られなかったのは痛いですね。
高くなってからの購入になってしまいそうですが、いつかキタサンブラック産駒に出資したいものです。