サンデーサイレンスを考える -3-
サンデーサイレンスを考える、第3弾です。
今回はサンデーサイレンスのスピードの源は何であるか、どう刺激すると孫世代やさらにその先の世代に伝わるかを考えていきたいと思います。
これを考えることで、サンデーサイレンスのクロスの魅力や課題点なども見えてきます。
ご参考になりますと幸いです。
各回へのリンク
第1回 サンデーサイレンスの競走実績と血統分析
第2回 サンデーサイレンスはなぜ日本で成功できたのか
サンデーサイレンスのスピードの源
サンデーサイレンスのスピードの源は主に2つあると考えられます。
- Teddy系とHimyar系の北米の競馬で培われた硬く力強いスピード
- Sun Princess≒Mahmoudの5×4×5による柔らかくしなやかなスピード
1つ目の要素は、速く強く回転数を上げるスピードのイメージです。
2つ目の要素は、ストライドを伸ばして一歩で大きく進めるスピードのイメージです。
日本の競馬は軽い芝が主流で、かつ大箱で直線距離が長い傾向です。
これは足抜きの良い北米のダートに近い要素とも言えますが、それよりも一層軽く、力強さは求められにくい傾向です。
また、欧州の芝のような重さもありませんから、そうした馬力もそう求められません。
つまり、日本競馬においてはこの2つ目のスピード要素、直線でストライドを伸ばして加速する要素を強化していくことが大事であると考えられます。
サンデーサイレンスのスピードを後世に伝えるとは、サンデーサイレンスの持つ柔らかなスピード要素を刺激することだと考えられます。
つまり、Sun Princess≒Mahmoudの5×4×5を活用することだと考えられます。
サンデーサイレンスの柔らかさを刺激する
前提として、サンデーサイレンス自身が優れたスピード能力を持っているため、子世代に対してはそのまま遺伝するものと考えています。
血統表で遠ざかるサンデーサイレンスのスピードを呼び戻すことを念頭に置いています。
単純に呼び戻すのであれば、サンデーサイレンスのクロスがまず有効です。
ただ、サンデーサイレンスを祖父に持つ種牡馬が全盛の現代において、それをすると血が濃くなりすぎてしまいます。
それをしないでサンデーサイレンスのスピード要素を刺激することができると理想的だと考えられます。
実際、サンデーサイレンスの直仔世代は、【サンデーサイレンスを考える -2- 】で説明した通り、
Cosmah ≒ Natalmaであったり、
Nasrullah ≒ Royal ChargerやMumtaz Begum ≒ Mahmoudがキーになっています。
これらは5代血統表上ではクロスとして表れにくい部分ですが、大きな成果を残しています。
これらを鑑みつつ、サンデーサイレンスのスピードを刺激できる血として有力なのは、Sir IvorとDroneがあげられます。
2頭共に父にSir Gaylordを持ちますが、いずれもRoyal Chargerの系統。
これはサンデーサイレンスの父系と共通しますし、Sir Gaylordは中でもスピードと柔らかさに富んだ血です。
Sir IvorもDroneも母系にMahmoudの血を持ち、そこも含めてサンデーサイレンスの柔らかなスピード要素を強化します。
Red GodやSecretariatもNasrullahの要素を持ちつつ、サンデーサイレンスの持つ北米的要素も刺激できることから、サンデーサイレンスのスピード要素を刺激するうえで有効であると考えられます。
このあたりの血が入っているとサンデーサイレンスのスピード要素を呼び戻している可能性が高いと考えることができます。
具体例 イクイノックス
2022年の天皇賞秋と有馬記念を制し、年度代表馬に輝いたイクイノックス。
イクイノックスの父キタサンブラックは極めて高い競走能力を持っていましたが、前粘りのスタミナタイプの馬で、鋭い末脚を発揮して直線で差し切るタイプの競走馬ではありませんでした。
対して、イクイノックスは鋭い末脚で直線で差し切る競馬を得意としています。
これは、サンデーサイレンスのスピードを呼び戻した結果の表れではないかと仮説だてられます。
父キタサンブラックを紐解いていくと、Sir Ivor・Nasrullah・ノーザンテーストの血を持っています。
※サクラバクシンオーが父系Nasrullah・母の父ノーザンテースト。Nasrullahとノーザンテーストとサンデーサイレンスの相性は第2回で説明。
母シャトーブランシュはキングヘイローを通して、Drone・Halo・Sir Ivorの血を持っており、これらはサンデーサイレンスの柔らかなスピード要素を引き出すのに有効な血です。
サンデーサイレンスとトニービンが好相性であることも、第2回で説明した通りです。
イクイノックスは5代血統表で見れば、Lyphardの5×5×4とHaloの4×4というクロスがわかりやすい要素として出てきますが、そうしたクロス以外にもサンデーサイレンスの血を刺激するものをたくさん持っていることがわかります。
これらの影響を受けたことで、直線で鋭くキレる末脚を発揮したと考えることができます。
特に、競馬の方向性が前粘り気質だったキタサンブラックにおいては、このようなサンデーサイレンスの血を生かす配合が有効に出ています。
イクイノックスはサンデーサイレンスそのもののクロスを持ちませんが、
キタサンブラック産駒からはサンデーサイレンスのクロスを持つ重賞馬(ガイヤフォースやラヴェル)が出ており、直接的な刺激すら有効だと考えられます。
父系がサンデーサイレンスでない馬や、サンデーサイレンス系統のながらも「らしさ」が薄い種牡馬に対しては、
サンデーサイレンスの柔らかなスピード要素を強化する血をどれだけもっているか、
ひいてはサンデーサイレンスのクロスをもっているかどうかは、重要なチェックポイントでしょう。
まとめ
今回はサンデーサイレンスのスピードの源と、それを引き出す血について考えてみました。
柔らかなスピード要素をメインに扱いましたが、当然柔らかいだけでは進んでいかないため、力強さの要素も必要になってきます。
そこも忘れずに押さえておきたい要素ではありますが、無意識的にも取り入れやすい要素でもあるため、今回は薄めの扱いとしています。
次回は、非サンデーサイレンス系統ながらも、サンデーサイレンスの血を引く種牡馬におけるサンデーサイレンスの役割について考えていこうと思います。主には、エピファネイア・モーリスです。
引き続きよろしくお願いいたします。