サンデーサイレンスを考える
2023年2月、エフフォーリアの種牡馬入りが発表されました。エフフォーリアは父エピファネイア、母ケイティーズハート、母の父ハーツクライという血統。3歳時に皐月賞、天皇賞秋、有馬記念を勝利。その成績もあって、2021年の年度代表馬に選出されています。
エフフォーリアは国内最大手の社台SSで種牡馬入りし、初年度の種付け料は300万と発表され、すぐに満口になるほどの人気を集めました。現役時代の活躍、そしてこの人気から、成果を残す可能性は高いのではないかと考えられます。
エフフォーリアのポイントとなるのは、サンデーサイレンスの3×4のクロスを持っていることです。サンデーサイレンスの血を引く繁殖牝馬は多数いますから、今後はサンデーサイレンスの4×5×3、4×5×4、4×5×5などを見る機会は出てくるでしょう。
このシリーズは何度かに分けて書いていこうと思います。
今回はサンデーサイレンスの競走実績と、その実績と血統を照らし合わせての分析を行うところまで書いていこうと思います。
参考図書
各回へのリンク
第2回 サンデーサイレンスはなぜ日本で成功できたのか
サンデーサイレンスの戦績
サンデーサイレンスは北米で走った競走馬です。通算14戦して9勝。全14戦で連対しています。2着に敗れた5戦のうち4戦は僅差負け。唯一8馬身差で負けたのがベルモントステークスで、これは距離適性による部分が大きいとされます。北米クラシック三冠はケンタッキーダービーとプリークネスSを勝利し二冠を達成しています。
サンデーサイレンスは同期にイージーゴアがいました。イージーゴアは20戦14勝、うちG1を8勝しています。ベルモントSでサンデーサイレンスに勝利したのがこのイージーゴアで、ケンタッキーダービー・プリークネスSでもサンデーサイレンスの2着に入っています。かなりレベルの高い対決をサンデーサイレンスが制したことは特筆すべき点です。20世紀のアメリカ名馬100戦にサンデーサイレンスは31位、イージーゴアは34位に入っています。この点からも、歴史的に見てもかなり評価された対決だったと言えます。
サンデーサイレンスの距離適性はマイルから10f≒2,000mほど。アメリカの競馬場は1周約1マイル≒1,600mほどが多く、直線をフルで走って4コーナー戦で2,000mというイメージです。ちょうど中山の内回りが1周約1,600mほどです。直線距離の短い競馬場が多いので、イメージ的に札幌競馬場の芝コースに近いのではないかと思います。イージーゴアに敗れたベルモントSの会場、ベルモントパーク競馬場のみ1周約1.5マイル≒2,400mほどの大箱です。
サンデーサイレンスは先行して3,4番手ほどを追走し、コーナーで加速しながら直線で突き放すという競馬を得意としました。また、プリークネスSはイージーゴアと馬体を併せての激しすぎる叩きあいを制して勝利しています。2012年のジェンティルドンナとオルフェーヴルの直線叩きあいにイメージとしては近いものがあります。馬体を並べて抜かせない、最後までくらいついていく勝負強さもサンデーサイレンスの武器でした。先述の通り、負けたレースもベルモントSを除いて僅差で、それだけ食らいついていく根性がある馬だったと表現できます。
サンデーサイレンスの血統分析
サンデーサイレンスは日本の芝に高い適性を示し、日本競馬の血統図を塗り替えた存在です。柔らかなストライドと駆動力を持ち、優れたスピード能力を産駒に伝えました。サンデーサイレンスは激しい気性で知られましたが、レースに行ってはそれがキレにつながり、スタートから素晴らしい逃げを見せたり、直線ラストで鋭い末脚を発揮することになりました。サンデーサイレンス自身、コーナーを利用して加速することができたように、器用な一面も持っていて、省エネで走る力も産駒に伝えたのではないかと推測します。
こうした要素がどこにあるのか、父Haloと母Wishing Wellから見ていこうと思います。
父 Halo
Haloは北米でリーディングサイアーに複数回輝いたこともある名種牡馬です。気性難で知られ、サンデーサイレンスの気性難は父譲りとされています。
Haloの父はHail to Reasonで、Roberto(エピファネイアやモーリスの父系)やBold Reason(Sadler’s Wellsの母の父)の父としても知られています。RobertoとSadler’s Wellsは日本においては力強さやスタミナの印象が強く、Haloとはまた少し異なるイメージがありますね。RobertoやSadler’s Wellsとの違いは、母系によると考えられます。
Haloの母はCosmahで、Northern Dancerの母Natalmaの半姉にあたります。Cosmahの2代父PaharamondとNatalmaの4代父Sickleは全兄弟で、その点から見てもCosmahとNatalmaは血統要素として似たものを持っていると言えます。今回の話において、ここは本題にならないので、いったんここまでにします。
HaloはBlue Larkspurの4×4、Sun Princess≒Mahmoudの4×3を受け継ぎます。Sun PrincessとMahmoudは父と母の父の構成順は異なるながら3/4同血という間柄。Hail to Reasonの父系のPharosとCosmah父系のPharamondが3/4同血という間柄。両親がそれぞれ持っている血でクロスが発生しており、比較的に相似な血を持つ両親による個性強化型、血の緊張度が高い組み合わせに見えます。
Blue LarkspurはHimyar系(ヒムヤー系)の血で、スピード能力の高い血。ヒムヤー系は傍流ながらも現在も北米でその血をつないでいます。日本ではダノンレジェンドがその系統の血をつないでいます。Sun Princess≒Mahmoudはスタミナと柔らかなスピードを産駒に伝える要素と見ています。これらの要素より、Haloは高いスピード能力と柔らかさを持っていたと考えることができます。この辺りは、力強さの要素が強いRobertoやBold Reasonと異なる部分でしょう。(この話もまた別でします)
母 Wishing Well
Wishing Wellの父UnderstandingはTeddy系の種牡馬。これは北米のパワー血脈で、この血が強い馬は力強い駆動力を産駒に伝える傾向があります。加えてUnderstandingはTeddyのクロスを持ちますから、この要素は強く発現しそうなところです。しかし、Understandingは同時にMahmoudの血を持っています。なので、単純に力強い要素だけでなく、柔らかさの要素も持っていると考えられます。
Wishing Wellの母Mountain FlowerはHyperionの3×4を持ち、並んで抜かせないメンタルのスタミナと単純な距離的なスタミナ両方を伝えることができそうな印象。北米の競走馬はHyperionの血を持っているケースが少なく、シンプルなスピードと力強さで勝負する傾向です。Wishing Wellがマイナーな牝系と称されたのもこうした背景があるのかもしれません。
UnderstandingとMountain Flowerは似た要素を持たず、強いクロスが発生していません。これはHaloとは異なるところです。
改めてサンデーサイレンスを考える
HaloとWishing Wellをそれぞれ見てきました。改めて、サンデーサイレンスを考えます。
HaloはSun Princess≒Mahmoudを持ち、Wishing WellもMahmoudの血を持ちます。したがってサンデーサイレンスはSun Princess≒Mahmoudの5×4×5を持つこととなります。柔らかなスピード要素はここが由来と考えられます。加えて、Haloの持つヒムヤー系のスピードはそのまま継続していますから、速さは十分に持っているでしょう。
加えて、Teddyのクロスも発生しており、先行気質の駆動力と前向きさを受け継いでいると考えられます。Wishing Wellの母系を通じて、Hyperionの血を受け継いでおり、勝負強さも存在しています。
今回のまとめ
今回はサンデーサイレンスの競走実績と、そこから見える個性を血統表と照らし合わせて分析を行いました。サンデーサイレンスは母の父Understandingが実績に乏しかったこと、母系に近世代での活躍馬がいなかったことから、種牡馬として北米で人気を集められなかったとされています。
ただ、サンデーサイレンスの柔らかさと先行力はUnderstandingが持っていた血の要素も大きいでしょうし、母系の持つHyperionの血が勝負強さにつながっていたと考えられ、実績に目をつぶれば活躍できる要素は持っていたと考えられます。
サンデーサイレンスについては引き続き考えていこうと思います。次回はサンデーサイレンスが日本で成果を残せた理由などについて考えていければと思います。よろしくお願いいたします。