種牡馬-ハーツクライを考える
本日6月30日に、シルクホースクラブの20年産駒の募集馬一覧が厩舎・金額含めて発表されました。いよいよ出資馬を決める時期が近づいてきたなと思います。
今回は先日種牡馬を引退したハーツクライを考えていきたいと思います。ハーツクライはすでに種牡馬として大成功を収めており、この組み合わせで成功する傾向がある、というのは出そろっています。でもそこで改めて考えることで、残された最終2世代の選択をより良いものにする、また種牡馬ハーツクライを知ることを通して、BMSとしてのハーツクライを知ることもできればと思っています。
この記事はこんな人にオススメ
- 一口馬主を始めようか悩んでいる人
- 一口馬主を始めることは決めたけれど、どのクラブにしようか悩んでいる人
- すでに一口馬主を始めていて、同じ馬や同じクラブで出資している人
- シルクホースクラブの20年産駒募集で出資を検討している人
並みのサラリーマンの一口馬主ライフってこんな感じか、と思ってもらえたらと思います。
ハーツクライの産駒傾向
ハーツクライは現役を退いて長いため、現役時代の解説はコンパクトにします。
ハーツクライは19戦5勝、重賞3勝という戦績を残しています。G1は有馬記念・ドバイシーマクラシックを勝利。特に有馬記念は当時無敗のディープインパクトを抑えての1着です。
デビューは3歳になってからで、クラシック路線では皐月賞14着、日本ダービー2着、菊花賞7着という成績を残します。同期にはNHKマイルと日本ダービーを制したキングカメハメハがおり、ハーツクライはその2着に入ったことになります。
G1初制覇となった有馬記念まで、中団から後方に待機して末脚勝負という競馬をしていましたが、有馬記念以降は好位につけて抜け出して勝利するという競馬に変化しています。これは産駒にも言えることで、本格化してくるとスタート直後から前目につけ好位置からの競馬ができるようになり、成績が上向きます。
代表産駒にはシュヴァルグラン・スワーヴリチャード・リスグラシュー・ジャスタウェイ・サリオスなどがいます。母系の個性を生かすタイプの種牡馬で、母の持つ血を素直に影響される傾向があります。そのため、様々な掛け合わせで成果を残しています。勝利数ではDeputy Minister系(クロフネやFrench Deputy)がかなり成果を上げていますし、G1路線ではMr.Prospector系が成果を残しています。牡馬やダート路線に目を向けるとRoberto系と好相性で、勝率・連体率ともにかなりの好成績を残しています。
NureyevやSadler’s Wellsとも好相性で、そのためKingmanbo系とは幅広い路線で活躍する産駒を出しています。Danehillと掛け合わせると2歳から活躍する産駒が出るようになり、クラシック路線にも間に合うようになります。一方、ハーツクライらしい成長力は損なわれてしまうのか、古馬になってから伸び悩む産駒も多い印象です。
ハーツクライは母系の持つ血を生かして成果を残せる万能型種牡馬と考えることができるのではないでしょうか。
ハーツクライはなぜ母系の血を生かせるのか
ハーツクライが母系の血を生かせる要因として、まずハーツクライ自身が魅力的な血を幅広く持っていることがあげられます。

ハーツクライは日本競馬を変えたとされるサンデーサイレンスと世界的名牝系My Bupers系牝馬のアイリッシュダンスの子として生まれています。

My Bupersの分析は以下の記事よりぜひご参照ください。

ハーツクライの母アイリッシュダンスは、父トニービン・母ビューパーダンスという配合です。トニービンも日本競馬に歴史的影響を与えた種牡馬の1頭です。


My Bupersの記事で書いたように、My Bupersは米国的パワーと前向きな気性、スピードを伝える血を持っています。ハーツクライの祖母、Buper DanceはそこにLyphardを掛け合わせることで、前で粘りこめるタフさを補った繁殖牝馬だと考えられます。そして、幾分マイルドになったところに、トニービンを掛け合わせて誕生したのがハーツクライの母アイリッシュダンスです。
アイリッシュダンスはG3を2勝するなど、競走馬としても成功した繁殖牝馬です。My BupersやBuper Danceはアメリカ血統のTeddyやHimyarの血は豊富に持つものの、欧州や芝で活躍する柔らかさやスタミナを伝える血(≒NasrullahやHyperion)はほとんど持っていませんでした。対してトニービンはNasrullah系の大種牡馬Grey Sovereignの血を引く種牡馬です。同時にHyperionの血も18.75%持っており、Buper Danceの持っていなかった血を見事に補うことができています。
その結果、アイリッシュダンスは日本の芝で通用するスピードと切れ味を身に着けることができたと考えられます。
そして、ハーツクライは米国の魅力と欧州の魅力を生かして日本の芝適性を手に入れた母アイリッシュダンスと、サンデーサイレンスの組み合わせで誕生しています。この配合は、実は米国的なパワーとスピードの復活に鍵があります。
サンデーサイレンスの父Haloは凶暴すぎる気性とスピードを持つ種牡馬とされています。

Haloは3代血統表では表現できませんでしたが、Blue Larkspurの4×4のクロスを持っています。加えて、Man o’Warの血、Teddyの血も継いでいます。これはMy Bupersの持つ米国的な要素に共通します。また、Haloの母CosmahはNorthen Dancerの母Natalmaと姉妹にあたります。少々ややこしくなりますが、CosmahとNatalmaの母Almamoud の父Mahmoudは、Nasrullahと同じ祖母を持ち、近親にあたります。
ざっくり整理すると、Haloは米国の傍流血統の魅力を多く含みつつ、Northen DancerやNasrullah的な要素も持った種牡馬だといえます。Halo自身は産駒にスピードと加速力、気性難を伝える傾向がありますが、これは米国的な要素に欧州要素をちょい足ししているからこそだと考えられます。

そんなHalo産駒のサンデーサイレンスは、母Wishing WellからHyperionとMahmoudの血を引いています。サンデーサイレンスが米国3冠路線で活躍できたのは、Haloの強烈な米国適正とHyperion的なスタミナを補ったからではないかと考えられます。また、日本で種牡馬として大成功したのも、日本の繁殖牝馬が持つHyperionやスタミナ血統とWishing Wellのスタミナ要素がクロスしつつ、Halo的な米国スピードを注入し、これまでになかった速さを日本競馬に伝えたからではないかと考えられます。
ここでようやく話がハーツクライに戻ってきましたので、画像を再掲します。

サンデーサイレンスとアイリッシュダンスの掛け合わせで誕生したハーツクライは、HaloとMy Bupersで米国的なスピードとパワーを強化し、Wishing Wellとトニービンでスタミナとキレを強化した種牡馬だと考えられます。一方で、Almamoud(Blandford) や Hyperion の要素が強まっているのも事実で、欧州的な晩成傾向の血も受け継いでいます。
結果として、ハーツクライの持つ米国的な血の魅力を発揮し、先行押切競馬をできるまでに時間がかかってしまったのだと考えられます。
ハーツクライはこのように、米国的な要素と欧州的な要素をふんだんに持ちつつ、日本の芝適性が高い種牡馬となりました。幅広く大切な要素を抑えているため、母系に何が来てもその効果を生かす素地があるのです。
どんな配合の産駒を狙うと良いのか
どのような配合であっても一定の成果を残すことを期待できるのがハーツクライです。その場合、どのような産駒を狙うと良いのでしょうか。
私は、配合内容と目指す路線が一致している産駒が良いのではないかと思います。クラシック路線での活躍を期待するのであれば、成長を早める要素を持つ配合をしたものが良いでしょうし、古馬王道を期待するのであれば、欧州要素を補う配合をしたものが良いのではないかと思います。
シルクの2020年産駒ではどうか、私なりに考えてみました。
クラシック路線
- アルビアーノの2020
- ルシルクの2020(晩成の可能性もアリ ダート路線での活躍もありそうです)
古馬芝路線
- エディスワートンの2020(これで2,3歳から走れれば、その先でさらに化けそうです)
- ハーレークイーンの2020(これで2,3歳から走れれば、その先でさらに化けそうです)
- ピラミマの2020
- マイハッピーフェイスの2020
エディスワートンやハーレークイーンの2020はかなりおもしろみと奥行きのある配合のように思え、未勝利突破さえできれば、将来伸びてくるのではないかと思います。
まとめ
成功した種牡馬の分析をすると、なぜ成功したのかが見えてくるような気がします。
BMSとしてハーツクライを考えたときも同様で、欧米要素をふんだんに持つハーツクライのどの要素を活用する配合かを分析すると良いと思います。ロードカナロアやエピファネイアとはそりゃ好相性ですよね、と思わされます。
引き続き分析を続けていきますので、よろしくお願いいたします。